ゲームレビュー

「創造」の虜になった4人のサイコホラー『Layers of Fear』リメイク版の考察・レビュー

ひろてく

主にホラゲの考察や感想記事を書いてます。 ストーリー性の強い作品が好きで、たまに映画の感想記事も。

はじめに

本記事は

前半では、購入を迷っている方向け

どういったリメイクなのかと、それぞれの物語についての概要を交え、このゲーム買うべき?をお伝えし、

後半ではゲームの内容に踏み込んだ「考察・レビュー」パートをご用意

後半パートについてはネタバレを含むのでご注意いただきたい。

Layers of Fearとは?

インフォメーション

開発 / 販売元Anshar Studios, Bloober Team / Bloober Team SA
対応機種Steam / PS5 / Xbox Series X/S / Mac App Store / gog.com
価格Steam:¥3,400
PS5 :¥3,410
Xbox Series X/S / Mac App Store / gog.com:$29,99
ジャンルサイコホラー / アドベンチャー
プレイ人数1人
発売日2023年6月16日(Steam)

どんなゲーム?何が増えた?

本作は、旧2作品と、新ストーリーを1つにまとめたリメイク作品だ。

ジャンルは一人称視点のサイコホラーアドベンチャーで、ジャンプスケア(おどかし)は少な目の雰囲気ホラーといったところ。

本作の構成を詳しくお伝えすると

2016年2月16日に発売した『Layers of Fear (2016)』(1と呼ぶ)と

2019年5月28日に発売した『Layers of Fear 2-恐怖のクルーズ』(2と呼ぶ)

そして本作の「作家の物語」が合わさったリメイク版である。ちなみに「作家の物語」以外の各物語は全てマルチエンディングとなっている。

もともと、1と2は全くの別物であったが、その内容を本作オリジナルのライターが書く(追憶する)ことによって、連なる1つの作品として完成させている。

うまくリメイクしたものだ。

1のコンテンツには「画家の物語」「娘の物語」があり、2では「役者の物語」がプレイできた。

さらに本作では、「画家の物語」にエンディングが追加された他

「音楽家の物語」という、画家の物語のスピンオフストーリーも楽しむことができるようになっている。

あまり踏み込むとネタバレになってしまうので構成については以上にしよう。

ちなみに以前はUnityやUnreal Engine 4で作られていたが、本リメイク版はUnreal Engine 5で作られており、グラフィックの質が大きく向上した。

さて

各物語の概要について説明する前に

ここからは『Layers of Fear』というゲーム全般の特徴について、ストーリー的なネタバレのない範囲でお伝えしていこう。

さすがナンバリングされているだけあり、全体の雰囲気もゲームの進め方もとても似ている。

Layers of Fearの特徴

本作はスピンオフを除けば、画家や役者、ライターなど、作品を生み出す職業の人物が主人公となっている。

サイコホラーのため、狂っていく人間の精神世界を見て恐怖するものであり、全体を通してジャンプスケアは少な目。

中でもLayers of Fear最大の特徴は、その精神世界の描写が四次元的なところ。

後ろを振り向くと、元居た場所とは違う場所になっていたり、落ちたり、時間が変化したりする。

しかし、それらの現象を引き起こすヒントはなく、感覚で進むしかない。

おかげで次にどこへ行くのが正解なのか分かりづらく迷うこともあるが、謎解き要素が定期的に用意されていたり、目を覚まさせてくれるような間隔でアクション要素を挟んでくるのも特徴的で面白い。

また、アクション要素が苦手、もしくは避けたい方にはセーフモードが用意されているので安心。セーフモードの場合は敵にやられることはない。

ちなみに、これはどうでもいいのだが、本作を2日かけて一気にプレイして1番思ったことはこれだ

引 き 戸 の ド ア が と て も 開 け づ ら い

現場からは以上だ。

次に各物語の概要について説明していこう。こちらのパートは踏み込みすぎるとネタバレになってしまうので、あくまでも概要だ。

作家の物語について

本作の主人公の物語。

とあるエッセイコンテストの優勝賞品が

「灯台付きの小屋で、指定された物語を書く」ことだった。

優勝したのは主人公のホラー作家。黒人の女性で、名前などの詳細は不明。

灯台にたどり着くも、施設の電話が不気味に鳴り、コンテストのエージェントから執筆を急かされる。

不信に思うも執筆を始め、過去の物語を追憶していく。

その物語とは『Layers of Fear』の1と2のことである。2を書き終えた時、作家に起こる出来事とは―。

画家の物語について

『Layers of Fear』1の物語。

小さい娘と音楽家の妻を持つ、画家の白人男性が主人公の物語。

妻に悲劇的な事故が起こり、人格が歪んでいってしまった画家は、自分の芸術を完成させるために屋敷を彷徨いパーツを集めることになる。

あなたが見つける芸術は、どれになるだろうか。

もともとマルチエンディングだったが、本作でさらにエンディングが1つ追加された。合計4エンディングある。

娘の物語について

画家の娘の物語。

プレイヤーが操作する娘はすでに大人に成長しており、娘が屋敷に戻ってきて過去のことを改めて想う物語。

娘目線で、起きたさまざまな出来事を考えていく。

ちなみに回想している時は視線が子供となり、魚眼レンズで見たような、少し横に膨らんだ世界が見えるのが特徴的。

とにかく暗くて視界が悪いのですさまじく酔う。

こちらは3エンディングある。

音楽家の物語について

画家の妻の物語。

とある事故によって音楽家としての才能を失った出来事は、画家の夫を狂わせてしまった。

一方でその狂気に同調してしまったのか、妻も狂っていくことになる。こちらは画家のスピンオフ物語であり、画家の物語で垣間見る妻のイベントにも遭遇する。

本作で追加された物語であり、画家の追加エンディングにも共通していく。

エンディングは2つある。

役者の物語について

『Layers of Fear 2-恐怖のクルーズ』の物語。

とある映画の主人公となって、映画監督の指示の下、映画を完成させる。

役者は映画の主人公を投影するための存在であり、映画の主人公が本作の主人公と言ってもいいかもしれない。

船に密航した2人の子供の姉弟のお話。この船どんだけ広いんだと思わせるほど広い。

懐中電灯で光を照らすと、一部のマネキンを動かすことができる。エンディングは3つある。

そういえば、1と比べて、たった1つ追加されたアクションがある。

「しゃがむ」だ。

しゃがむことができる。

買うの迷ってるけど買うべき?

本作は

不気味な絵画や映画の舞台を見て、主人公たちの狂気の進行に応じて狂っていく世界を楽しむ、おどかし要素やアクション要素が少な目の、サイコホラー兼雰囲気ホラーだ。

クリアレビューを見ると、クリアしたときに、ホラーなのに怖くなかった、と感想を述べる人も少なくない。

単なるおどかしやアクションのホラーを求める人にはおすすめできないが、アドベンチャー要素が強いため、物語性や雰囲気が気に入ったなら買うのは大いにアリだ

Unreal Engine 5 を使ってゲームが作られているためグラフィックの質は最高峰。セーフモードで遊ぶならウォーキングシミュレーターそのものになる。

夜中に一人で雰囲気に溺れて楽しむのは最高に楽しいだろうと思う。

2では現実に存在する映画のオマージュ要素が多いため、映画を知ってるとより楽しいかも。

なお、次のレビュー・考察パートからはネタバレありの内容となっている。未プレイの方は閲覧注意でお願いしたい。

レビュー・考察(ネタバレあり)

考察

結論から言うと、

本作は単に人が狂ったサイコホラーではなく、1人の悪魔が、狂い始めた人々と契約していく1つの物語である

前提事実から述べていこう。

1の「画家の物語」「音楽家の物語」「娘の物語」の内容と、悪魔の関係はこうだ。

名高い画家だった主人公は音楽家の美人妻と娘と3人で幸せに暮らしていた。しかしある日、妻はデパート火災で皮膚に重症を負い、指が変形してしまったため、音楽家の才能を失ってしまった。皮膚移植によって顔は一部やけどの跡が残ることになったが、妻は自分を醜く思い許せず狂っていく。また、夫もその出来事によってスランプに陥ってしまい、酒に溺れ、ネズミの幻覚を見るなど統合失調症の症状が発症し狂っていく。あげく妻はバスルームで自殺してしまい、娘は養護施設で保護されることとなったが、夫は娘を誘拐し逮捕され、出所したところから、自分の芸術を完成させるため自分の屋敷に戻ったところで、1のゲームがスタートする。エンディングは分岐するも、画家は何かに憑りつかれたように、"終わらせる"ため芸術を完成させる。リメイク前の1では、ネズミの悪魔の絵が主人公に干渉しているのはおぼろだったそうだが、本作のリメイク版は主人公が悪魔に接触したことが鮮明に分かる。娘は大人になって改めて屋敷を訪れるも、昔のことを思い出しながら、狂ったようなエンドを見せてくる。悪魔が全員と契約したかは不明だが、画家とは交わしている。

2の内容と、悪魔の関連はこうだ。

活発な姉と存在感の薄い弟がいた。母親が、弟を生んだことで亡くなったため父親は子供に虐待をしていた。姉は弟を守っていたが、頼りにならないと思っていた。父親が亡くなってからは、姉弟は舞台のクルーズ船に密航する。姉とはぐれた際に、弟はネズミの悪魔と出会う。クルーズ船は不運にもエンジンルームの火災によってボイラー室が爆発し、乗客の半数が海に沈んで亡くなる事故が起きてしまった。弟は救命ボートで助かるも、姉は死亡してしまった。弟がボートから海に向かって呼びかけると、死んだはずの姉の魂が反応し、姉の魂が弟の身に宿ることとなった。実際、ゲームプレイ中にダメージを受けると女性の声がするが、見た目は弟のような描写がある。作中でずっとナレーションのように語り掛けてくる"監督"の指示に従い続ければ、役者は"自己の薄い弟"に、監督に逆らい続ければ役者は"姉"になる。それがエンディングの分岐となっている。悪魔との関係は、作中で弟に執拗に語り掛けてくることはもちろん、ストーリー終盤でひび割れた仮面を拾った際の姉の声で「あなたは虚空から私に呼び掛けた。」「でも応えたのは、他の何かだった。」と言っているように、弟が海に呼び掛けた結果、悪魔との契約が結ばれ姉の魂は復活したことが分かる。また、本人でしか知るはずのないことを多く知っている監督も、ネズミの悪魔の一味であると容易に考えられる。

最後に作家の物語の内容と悪魔の関連について。

身体に障がいのある息子がいる、ホラー作家の物語。エッセイコンテストの優勝賞品が灯台にて、指定された物語を執筆することだったが、精神的に追い詰められネズミの悪魔と契約してしまう。憑りつかれたように、1の内容にあたる「画家の物語」「音楽家の物語」「娘の物語」を完成させる。ゲームではすぐ2の執筆にとりかかろうとするが、実は1のクリアから2の始まりの間に10年が経過している。悪魔の力を借りて執筆した代償なのか、コンテストのエージェントに息子を誘拐され、作家はスランプに陥り借金生活となっていた。息子を取り戻すため、10年の月日を掛けてエージェントについて調べ、「役者の物語」を書くために再び訪れたことになっている。実際のゲームプレイでは再訪するようなムービーはなく、ただ1を書き終えて2を書き始めるように思えてしまうので、10年が経ったとは理解しづらい。しかしそのヒントは、1の執筆前に何気なく息子と電話で話していたにもかかわらず、1のストーリークリアにはエージェントにブチギレて息子を返せといっている豹変ぶりからや、10年掛かったという内容のメモから、10年時間が進んだことが分かる。そして役者の物語を書き終えると、作家は突然ネズミの悪魔の絵を燃やそうとするが、作家は灯台の小屋に閉じ込められて出ることができず終わる。この時悪魔が死んだのか、作家が死んだのか等は不明だ。ちなみに作家は悪魔のことを「女王」と呼んでいた。

以上の前提事実から分かるように、本作は一見、不幸な事故や境遇などに起因するサイコホラーに思えるがそうではなく、狂い始めた人々のサイコを増幅させる、ネズミの悪魔と契約してしまったからこそ生まれた物語なのだと分かる。リメイク前では匂わすぐらいだったらしいが、本作では露骨に関係していることがプレイをするだけで分かる。なので冒頭の結論に至ったというワケだ。そう思うと、このゲームの本当の作家は、ネズミの悪魔だったのだ。それが筆者の考察であり、本作についての結論だ。

レビュー

筆者はゲームのメッセージ性というものが大好きで、常にゲームが何を伝えたいのかを考えて遊んでいる。ハクスラ系(ただ敵を倒すだけ) のゲームやパズルゲームならば、メッセージはなく、スポーツに近いと言って良いだろう。一方、それら以外、ほとんどのジャンルのゲームには大小あれど物語性が備わっている。

ホラーといえばジャンプスケアでとにかく脅かす、という古典的なものが主流だ。もちろん本作にもジャンプスケア要素はある。しかしそれを多用されてしまうと、プレイヤーは疲れるし飽きてしまう。それがホラー映画でもホラーゲームでも、製作の難しいところだろうと思う。

1つの物語の中で、ビビらされて怖いというより、プレイヤーに「染みるような恐怖」を体験させることこそが、上質のホラーであるし、ホラーの中でも難しい点なのだ。それらは「湿度の高い恐怖」などと形容されることもある。

悪魔のせいにしろ、人が狂っていく精神状態と、その精神状態に応じて世界が混沌としていくリアル感。これはUnreal Engine 5を起用したことが大成功だったように思う。狂った世界は、サブリミナル画像を高速で再生するような安易な表現が多いが、本作はじんわり、じっくり表現されていく。ホラーゲームは短編が多い中で、ここまでボリュームと内容がたっぷりある中で、ジャンプスケア少な目のゲームは稀有と言えよう。ホラー好きの筆者は最高に楽しめた。

一方、残念な点は酔うことだ。

画面がとても暗い中で、目を凝らして素材集めをすると異常に酔ってしまう。筆者はゲーム酔いはほとんどしない人間なのだが、「娘の物語」だけは魚眼レンズの視界で、なおかつ真っ暗で懐中電灯がないという最悪のコンディションが続くため、クリア後に半日も酔ったままだった。娘の物語を遊ぶ際には、万全の体調で臨んでほしい。

配信外でも遊んでなかった物語をしっかり遊んで、何度も配信の動画を見直して本記事を執筆することができた。そうしたいと思える良い作品であった。もし時間があるならば、『シャイニング』というホラー映画を見てから遊んでもらっても良いかもしれない。

『シャイニング』は呪われた館に主人公が憑りつかれて狂気を引き起こし家族を殺しにかかる、ホラー界の巨匠、スティーブン・キング氏の小説が元ネタの大ヒット映画だ。建物を悪魔とするならば、本作と似ていると言えるだろう。分かるだけで3カ所ほどオマージュ演出があったので、良ければ事前に見てみることを勧めたい。筆者はホラー映画も大好きなのだ。

関連リンク

◆Layers of Fear公式サイト
◆Layers of FearのSteamストアページ
◆筆者がYouTubeで配信プレイしたアーカイブ
◆筆者のYouTubeチャンネル(記事が良かったら登録して応援お願いします!)

“Layers of Fear” and all logos, characters, names, and related indicia are TM & © 2022 Bloober Team S.A. All Rights Reserved.
“Layers of Fear” (2023) game co-developed by Bloober Team S.A. and Anshar Studios S.A. Bloober Team is a registered trademark of Bloober Team S.A. (Inc.) in US and/or other countries. “Layers of Fear” (2023) game published and distributed by Bloober Team S.A. All rights reserved.

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