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『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)の原作との違い解説・感想レビュー【SF映画】

一乃

ホラーと本と映画と猫とレオパが好きな者です。

基本情報

プロジェクト・ヘイル・メアリー(2026)
原題:Project Hail Mary
製作国:アメリカ
監督:フィル・ロード&クリス・ミラー
原作:アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2021)
脚本:ドリュー・ゴダード
出演:ライアン・ゴズリング、ザンドラ・ヒュラー

あらすじ

太陽と金星の間に現れた謎の「ペトロヴァ・ライン」の影響で、太陽エネルギーが指数関数的に減少していることが判明する。このままでは数十年後に地球は氷河期へ突入し、あらゆる生命が滅亡の危機にさらされることになる。そんな中、宇宙船の中でひとり目を覚ましたグレース(ライアン・ゴズリング)は、人類の存亡をかけ、異常事態の原因究明に挑む。しかし、自分は宇宙でたったひとりだと思っていたグレースは、やがて別の宇宙船の接近に気づき……。

作品紹介

注:本稿では、予告編や公式でプロモーションされている情報はネタバレと見なさず記載する。完全に事前情報なしで楽しみたい方は注意。

アメリカの大人気SF作家アンディ・ウィアーによるベストセラー小説、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の映画化作品。
ちなみにアンディー・ウィアーは、火星じゃがいもサバイバルSF映画『オデッセイ』の原作者でもある(原作タイトルは『火星の人』)。

本作は日本でも大々的にプロモーションされており、公開最初の週末に約4億833万円の興行収入、動員数約23万3000人を記録。4月1日時点の情報では、世界興行収入が累計2億9760万ドル(約476.2億円)を叩き出しており、現時点で2026年一番のヒット作品と言えるレベルで盛り上がりを見せている。

主演が日本でも知名度の高いライアン・ゴズリングであることも大きいだろう。一般的に主演作で一番有名なのはミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』だろうか。ちなみに彼は本作のプロモーションで『ラ・ラ・ランド』ポスターのセルフオマージュを行っている

こんな人におすすめ

・大作SF映画が見たい人
・宇宙や科学ネタが好きな人
・弱さや欠点のある主人公が、何かを救うために奮闘するのが好きな人
・バディものが好きな人
・人外萌えの人

予告編を見てちょっとでもワクワクしたら見て損はない。特にIMAXで見ると宇宙空間の圧倒的な迫力・美しさが楽しめるのでおすすめ。
宇宙を舞台にしたSFはやはり制作ハードルが高いのか、B級ホラー映画がぽんぽこ量産されるのに比べると圧倒的に数が少ない。本作はビジュアル面にもかなりこだわって作られているので、宇宙・SF好きならぜひ見てみてほしい。

また、SFに対してちょっととっつきにくいイメージを持っている方でも、本作はかなり見やすい作りになっているので安心してほしい。
科学的な細かいあれこれはかる~く触れる程度に簡略化されているので、「未知の何かのせいで太陽がヤバくて地球もヤバいので何とかしに行く」くらいの認識でOKだ。
あとはエイリアンのロッキーがひっくり返るほどかわいいので、なんかそういう生命体に萌える人には全力でおすすめしたい。

ざっくり感想(ネタバレなし)

一乃の感想

映画公開前、原作既読勢のネタバレ禁止な空気がものすごかったのでどこからがネタバレかもうよく分からなくなってきているのだが、公式で大々的にプロモーションされている情報はもうネタバレとは見なさないこととする。

というわけで、ロッキーがめちゃめちゃめちゃにかわいい。
原作比較の項目で詳しく述べるが、映画は主人公・グレースとエイリアン・ロッキーのバディ要素に特にフォーカスした作りになっている。公式Xとかを見てもらえるといいのだが、ロッキーは地球の大気をものともせずプロモーションしまくっている。かわいい。
アメリカ本国ではかわいいロッキーのグッズがたくさん出ているのに日本では何もないのが悲しすぎるが、一応Amazonでアパレルは買えるらしい。そのうち増えることを願っている。

あとは前項でも述べたが、とにかくスケールのでかい宇宙ものとして非常に映像のクオリティが高い出来になっている。映画館で見るべき映像体験だと言えるので、興味のある方はぜひ映画館で見てほしい。
ライアン・ゴズリングの、コミュ力は高いしユーモアはあるけど、どこか孤独な影を背負った感のある科学オタクというニュアンスのある演技もとてもよかった。

ひろてくの感想

一乃氏に連れられて前提情報ゼロで映画館に突撃。

IMAXのクオリティ自慢から始まって、針の落ちる小さな音(爆音)を聞いて映画がスタート。SF映画なのに、もうロッキーがかわいすぎて宇宙のことが何も頭に入らなかった。プロジェクト・ロッキーってタイトルでもいいぐらいだ。イスが好きなのに岩も好きになってしまった。どうしてくれるんだ。

ストーリー解説・感想(ネタバレあり)

ストーリー解説

「ヘイル・メアリー計画」について要約すると、
アストロファージっていう単細胞生物のせいで太陽がヤバくて地球の生命が滅亡しそうなので、なぜか唯一無事な星を調査するぜ!
アストロファージが燃料として超すごいからそれで宇宙船を作るぜ!
でも片道分しか燃料ないからクルーは帰ってこれないぜ!調査結果だけ地球に送ってね☆
というプロジェクトなのである。なんてこった。

後半、グレースは崇高な志を持って計画に志願したわけではなく、正規クルーの科学者が急な事故で亡くなってしまったため、計画に関するあらゆる知識を持っている彼が代替要員としてストラットに任命されたということが明らかになる。
グレースはビビり倒し、文字通りダッシュで逃げようとするのだが、捕まったあげく薬を打たれて強制的に船に乗せられたのだということを思い出す。

そんなグレースが、ロッキーから燃料をもらって地球に帰還することができると知った時に浮かべた安堵の涙。
そして、最終的にロッキーを救うか地球に戻るかの二択を迫られた際に、かつて醜態を晒してまで自分の命を惜しんだ彼が、一体どんな決断をしたのか。
人類のために命を投げ出せるようなヒーローではなかった主人公が、言葉も通じなかった相手と友情を育み、自分自身と向き合う勇気を見出すという、非常にエモーショナルな物語なのである。

もちろんロッキーはかわいい。

映画版の感想

一乃の感想

圧倒的な映像美に関しては、とにかく本編を見てくれとしか言いようがない。グレースが惑星エイドリアン上空でサンプルを採集する際、大量のアストロファージに囲まれるシーンがあるのだが、銀河のようにきらきらと輝く幻想的な光景がなんとCGではなく物理的に演出されていると知ってびっくりした。
ロッキーもCGではなくパペットで操作されているが、どれだけCGが発達しても、やはり物理的な方法で作られる世界観の魅力というものはあると思う。

そのロッキーだが、ハムスターみたいにボール(?)に入ってヘイル・メアリー号の中をごろんごろん走り回るシーンは悶絶するほどかわいい。後述するように、映画のロッキーは原作よりかなりテンション高めなのだが、それがライアン演ずるちょっと湿度のあるグレースとバランスよくハマっているように思える。

グレースは決して陽キャではない。もちろん、生徒を楽しませられるだけのユーモアや親しみやすさはある。グレースを監視していたカールとノリノリで買い物するくらい、楽しい空気を生み出すこともできる。しかし、どこか周りから一歩距離をとるような孤独感をまとっており、多分そのためにストラットと空気感を共有することができる。

ザンドラ・ヒュラー演じる映画のストラットは、責務遂行のために残酷な判断を下せる人物でありながら、やはりどこか感傷を抱えた人物として表現されている。彼女はグレースの善性を見抜き、それを心から信頼している。リスクを絶対に回避するはずの彼女が、あれだけ嫌がり倒したグレースを、それでも無理矢理ヘイル・メアリー号にぶち込んだのは、彼ならば結局やってくれるだろうという信頼があるからだ。もちろん原作でも判断は同じなのだが、映画の場合はストラットの噛み締める苦悩や人間味がより感じられる演出となっていた。
だからこそ、最後にストラットがグレースの送ったサンプルや映像を受け取るシーンは、二人の関係性をよりあたたかなものにするよい追加シーンだと思った。

ひろてくの感想

原作のことはまったく知らないので、純粋な映画だけを見た人の感想もここにひっそり残しておこう。一乃氏は小説もちゃんと読み込んでいた。

やっぱりIMAXで描かれる映画の映像や音声はハンパなかった。毎回やってくる自慢は伊達じゃない。ロッキーの走るときの音だってちゃんと綺麗に聞こえてた。やっぱりお金がかかった映画っていうのは映画館で観たいなって思ったのが率直な感想だ。そして僕もあのロッキーのカクカクボールに入って走り回りたい。

やっぱりネタバレありの感想なのでしっかりここからは書いていこう。まず良かったのはグレースの人間味だ。この手の主人公としては珍しい、家族の描写も特にない独り身。妻子持ちでなかった時点で地球には戻らないんだろうな、と思っていたらやっぱり戻らない選択をした。最初に地球を救いたいとか立派な気持ちを持ち合わせていなくて逃げようとしたのも、自分の論文で存在を信じていたロッキーのような存在に出会ったときの感動っぷりはやっぱり科学者だなと思った。ただ、ロッキーへの愛は本物だった。最後の選択で、自分が地球に帰ればロッキーが放射線で苦しむことを理解し、ちゃんと地球も救っておいてロッキーを助けに行ったところは本当に好きになった。自分も有機物より無機物が好きなので気持ちがすごい分かる。

あとはロッキーについて。ロッキーはもう1人の主人公だ。人間に興味津々で、地球でいうインコぐらいに活発でいたずらっ子なキャラクターは最初から最後まで大好きだった。緊急事態でカクカクボールから出たときに大けがをしたときは心配でずっと泣いてた。でもゆっくり起きてまた元気になっていく様子は、昔飼っていた犬が病気から元気になったときと同じぐらい嬉しくなった。最後のロッキーの作ったバイオームでロッキーの仲間が映るシーンは本当にかわいい。

本作は宇宙映画にしては珍しく、宇宙への恐怖とかよりも、お互いに同じ使命を背負ったグレースとロッキーの絆がメインだったように思う。もちろん宇宙の描写も安定の高クオリティではあったのだが、やっぱり2人が仲良く宇宙船で暮らしているシーンが1番面白かった。良い意味で裏切られた宇宙SF映画だ。

そういえば、70年代にアメリカでペット・ロックが流行っていたことがあった。昔それを知ったときは一体何を考えているんだ、と思っていたが、今思えば、あれは時代の先取りだったのかもしれない。人類に早すぎるものは、そこら中に転がっているということのメッセージなのだ。

原作との違い・比較感想(ネタバレあり)

ここからは、原作と映画との違いの中でも特に注目したいポイントをピックアップして解説していく。

グレースが記憶を取り戻すまでの流れ

実は、映画の方は最初からめちゃめちゃはしょっている。映画のグレースは最初はパニクっているものの、比較的すぐに自分が教師であったことや、船にのっている流れを思い出すのだが、原作は結構時間をかけながら断片的に思い出していく。
そして個人的に、この流れこそが原作の最大のうまみであり、原作が映画を超える一番のポイントだと思う。

グレースが自分の名前すら思い出せない中で、思考を進めながら自分や周りの状況につながるヒントを探っていく過程は、ミステリ小説の推理シーンにも近い。映画では窓を覗くとすぐに宇宙にいることが判明していたが、原作ではこうだ。引き出しから落ちてきたメジャーが額にぶつかり、異様に痛かったことに違和感を覚え、試験管が床に落ちるまでの時間を計測して重力が大きすぎることに気付き、ここは地球ではないという可能性を導き出す。わくわくするような知的興奮を覚えるシーンだ。

その他にも、グレースは断片的に蘇ってくる記憶と、本能のように備わっている科学知識をフル活用しながらこれまでのことを思い出していく。読者もグレースと同じスピードで状況を理解していくので、まるで彼と一緒にこの状況に向き合っているような面白さがある。物語を読む楽しさが凝縮されたパートなので、映画を楽しんだ方はぜひ原作にも触れてみてほしい。

ロッキーの性格

ロッキーがヘイル・メアリー号にやってくる時の暴れっぷりからも分かるように、映画版のロッキーは結構アクティブだ。かわいい。
対して原作のロッキーは、どちらかというともう少し落ち着きがあり、グレースのギャグに冷静に突っ込んだり、睡眠不足で頭が回らないグレースに寝ろと叱るシーンなんかもある。映画のロッキーが無邪気な子供のようなイメージだとしたら、原作のロッキーは熟練のエンジニアそのものだ。

分かりやすく違うのは食事に対する姿勢で、映画ではロッキーは嬉々として自分の食事方法を見せ、グレースをドン引きさせている。
一方原作では、食事は下品だから人に見せるものではないと見せるのを拒否するものの、グレースに粘られて渋々食事姿を見せる。どちらのロッキーもそれぞれに魅力があり、映画版の感情の機微がうかがえるほどの細やかな仕草は見ていてきゅんとくる。原作のロッキーは切れ味鋭いセリフが魅力的だ。

一つ言えるのは、原作では映画にないグレースとロッキーのコミュニケーションをたくさん読むことができるということだ。特に、タウメーバ関連のシーンは映画では大幅に省略されているが、原作では二人一緒に実験を重ねたり、タウメーバが漏れてトラブルになったりというシーンなどがある。二人のやりとりをもっと見たいという方はぜひ読んでみてほしい。

世界中の研究者たちの貢献

映画で一番ばっさりカットされていたのは、ヘイル・メアリー計画に関わる地上の他の研究者らの奮闘である。
ペトロヴァ・ラインを発見するところから始まり、ヘイル・メアリー号を打ち上げるに至るまで、原作では世界中の科学者や専門家たちが登場し、それぞれの専門分野から計画のために知恵を絞る場面が描かれている。この計画がいかにとんでもない代物で、実行のためにどれだけの頭脳を必要としたかがよく分かる。
個人的に特に印象に残っているのは、気候学者のルクレール博士だ。彼は環境破壊を止めようと学者になったにも関わらず、ストラットに命じられ、温室効果ガスであるメタンを閉じ込めている南極の氷に核爆弾(!)を打ち込む羽目になる。言わずもがな、温室効果ガスは地球温暖化の要因の一つである。

ルクレール博士だけではなく、原作ではほかにも大勢の研究者たちが登場し、さまざまな科学的アイディアや発明について詳しく読むことができる。いわゆるサイエンス・フィクションの面白さがたっぷり詰まっているので、このへんもぜひ楽しんでもらいたい。

グレースの最後の決断

映画のラストで、グレースは地球に帰るか、ロッキーを助けに向かうかの二択に直面する。映画では単に燃料が足りないがためにこの二択になっていたのだが、原作ではもう少し自体がややこしい。食料問題だ。
ロッキーを助けるために彼の宇宙船に向かった後、ロッキーの星で燃料を補給してもらうことが可能かもしれない。しかし、ヘイル・メアリー号にある食料が底を尽きてしまう上、ロッキーたちの食べ物は人間には猛毒だ。だからこの場合、グレースは単に地球に戻れないというわけではなく、宇宙で餓死してしまうのである。この予想はかなり恐ろしい。

それでもなお、グレースはロッキーを助けに行った。地球ではさまざまな問題から逃げていた彼が、その選択をした意味は大きい。

ちなみに最後の最後、惑星エリドでのシーンは、映画と原作とは風景が大いに異なる。地球の海辺を再現した映画版も美しかったが、原作の異星であることがよく分かる描写もとても面白い。

まとめ

結論としては、映画をたっぷり楽しんだ人は、ぜひ原作も読んでほしいという一点に尽きる。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の世界をより深く味わえるはずだ。

また、本作のVRゲームが2026年内にリリース予定されていることも発表された。VRでロッキーと触れ合えるのだろうか?こちらも楽しみに続報を待ちたい。

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