コラム リミナルスペース、バックルームズ系

【完全解説】バックルームズとリミナルスペースとは?美学とホラー文化

ひろてく

主にホラゲの考察や感想記事を書いてます。 ストーリー性の強い作品が好きで、たまに映画の感想記事も。

はじめに

本記事は、ホラージャンル「The Backrooms(バックルームズ)」および「Liminal Space(リミナルスペース)」についての完全解説である。これらの言葉が生まれた経緯や意味といった基本情報から、ネット上のコミュニティの構造、美学や音楽ジャンルに至るまで、詳細な情報を一つの記事にまとめている。

Liminal Space(リミナルスペース)とは

Liminal Spaceとは、もともと建築用語に由来する言葉である。たとえば「階段」や「ロビー」のように、空間と空間をつなぐ場所を指していた。Liminalという単語自体が、閾(しきい)、すなわち「境界」などの意味を持つ言葉だからである。

そこから派生して、「Liminal Space」という言葉は単なる場所ではなく、
特定の感情と感情をつなぐ、または引き起こす場所を指すようになった。
そしてその感情とは、「懐かしさ(ノスタルジー)」と「恐怖」である。

感覚的に理解できる一言で表すなら
「現実世界の一部っぽいが、どこかズレている場所」
というのが分かりやすいだろうか。人がいるはずの場所なのに無人であったり、ただの事務所なのに無限に広がっていそうな空間とか。

無人のショッピングモール*1
異様に広いプール*2

上の画像を見てほしい(リミナルスペースの画像)。
写っているのは、誰もが一度は訪れたことがあるようなショッピングモールやプールの風景だ。一見すると懐かしさや親しみを感じるだけのように思えるが、そこには人がいない。そして人がいるはずの場所が薄暗く無人であると、人はそこにズレを感じる。そこから、次のような恐怖が生まれる。

「このショッピングモールは無限に広がっているのでは……。」
「このプールは慣れ親しみのある場所なのに、なんだか異様に大きい……。」

このような、懐かしさや親しみの感情と、恐怖を同時に引き起こす場所。それがLiminal Spaceという概念である。こうした感情のあいまいな「あいだ」の状態は、後述のLiminality(リミナリティ)という言葉でも表現される。創作においてもよく使われる概念なので、詳しくは次項で解説したい。

また、Liminal Spaceの起源について明確なものはないが、ミームデータベース「Know Your Meme」によると、2018年頃のTwitter(現X)で散見され始めたとされる。2019年4月には、現在と同じ意味でのLiminal Spaceを表す投稿が見られるようになった。この頃から、Liminal Spaceはインターネット上で一つの視覚的美学として定着し始め、ノスタルジーと恐怖の狭間を描き出すジャンルとして、静かにその存在感を広げていくことになる。当時はまだかなりマイナーな美学ジャンルであったが、後述の「The Backrooms」によって、広くネット上で定着することとなる。

Liminality(リミナリティ)とは

違和感のある画像*3

Liminal Spaceという言葉には、大きく分けて二つの意味がある。

一つは、それ自体がノスタルジーと恐怖の狭間を描き出す概念であること。
もう一つは、実際にそうした感覚を喚起させる場所としての意味だ。

この違いは、単語の形にも表れている。通常、Liminal Spaceには複数形や冠詞がつかず、その場合は概念として用いられている。そして、その概念性をより明確に言語化するために用いられるのが、「Liminality(リミナリティ)」という言葉なのである。日本語ではリミナル性と呼ばれることもある。

ちなみにこの「Liminality」という言葉は、後述するThe Backroomsの2大wikiコミュニティである「Fandom」と「wikidot」の執筆ガイドでも明確にその必要性が言及されており、それほど、物語や世界観を構築するうえでの中核をなす要素とされているのだ。この要素があるからこそ、空間は「語り始める」のである。

一方で、「Liminal Spaces」と複数形で使われる場合、それはリミナリティを感じさせるような場所や風景を指す用法となる。
たとえば、Liminal Space系の画像を多数投稿している著名なアカウントの名前は「Liminal Spaces」であり、これは「リミナリティを感じさせる風景の画像を数多く投稿するアカウント」という意味合いで使われていると考えられる。

The Backrooms(バックルームズ)とは

The Backroomsとは、2019年5月12日に海外の匿名掲示板4chanにて生まれたクリーピーパスタである。ちなみにクリーピーパスタとは、インターネット発祥の怪談や都市伝説の総称のことだ。The Backroomsはネット上で瞬く間に広がり、ネットミームとしても定着していった。ではどのようなクリーピーパスタなのか、その誕生の経緯から見ていこう。

The Backroomsの起源となった画像*4

上の画像を見てほしい。一見すると、大型店舗のバックルームを撮影しただけの、ごく普通の写真に見えるかもしれない。だが、まさにこの画像こそがThe Backroomsの起源となるものである。

2019年5月12日、4chanの
「違和感を覚える画像を投稿するスレッド」
にこの画像が投稿され、約8時間後、スレッド内でその部屋に関連する「設定」のような文章がレスポンスされた。その文章を、日本語版「Backrooms Wiki」(Fandom内)に掲載された翻訳文を引用すると、以下のようになる。

あなたが注意を怠って、おかしな所で現実から外れ落ちると、古くて湿ったカーペットの匂いと、単調な黄色の狂気と、最大限にハム音を発する蛍光灯による永遠に続く背景雑音と、約十五兆 m2 を超えて広がるランダムに区分けされた空っぽな部屋部屋へやべやに閉じ込められるだけの、 ”The Backrooms” へ行き着くことになるのです。

もし、近くで何かがうろうろしているのが聞こえたら、それはきっとあなたが出す音に気付いていることでしょう。あなたに神の救いがあらんことを。

このような、世界観的な文章がレスポンスされたことで、画像とともにThe Backroomsという設定は爆発的に拡散された。

2019年5月20日には、The Backroomsの世界観を皆で創作していくwikiコミュニティ、Fandom版「The Backrooms Wiki」が開設され、同日に海外の匿名掲示板RedditでもThe Backroomsのサブレディット(5ちゃんねるでいう板のようなもの)が作られた。こうして、The Backroomsは不特定多数による参加型の創作都市伝説としての形を成していくことになる。

このThe Backroomsの起源となるレスポンスは、

「もしもこのバックルームが無限に続いていたら……」

「もしもこのバックルームに異形の生物が潜んでいたら……」

といった想像をかき立てるものであり、その根底には、親しみのある空間のズレから恐怖を生むリミナリティの概念があった。

wikiコミュニティでは、画像とともに世界観を補完するテキストを投稿する形式でページが作られていき、1つの世界、ステージを「レベル」と呼び、コミュニティには数多くのレベルが投稿され成長していくこととなる。

そうして、爆発的に「The Backrooms」が拡散されたことによって、「Liminal Space」という言葉や存在も、より広く知られるようになっていった。

さらに、The Backroomsの知名度を飛躍的に高めた大きな要因の一つが、あるYouTubeチャンネルの動画である。

それは「Kane Pixels」というYouTubeチャンネルにて、2022年に投稿された映像作品『The Backrooms (Found Footage)』だ。当時16歳だったKane Parsons氏によって制作されたこの動画は、短編ながら信じられないほど高い完成度を誇っていた。

この1本を見るだけでThe Backroomsの雰囲気が十分に伝わるだろう。視覚的に理解したい人には、ぜひ一度見てみてほしい。

その後もKane Parsons氏はThe Backroomsをテーマにした短編映像を次々と投稿し、累計再生回数は1億回を超えるに至った。

2023年には、映画『ミッドサマー』などで知られる制作会社「A24」によってその功績が認められ、Kane氏が監督を務める形で本作の長編映画化が正式に決定。海外メディア「Deadline」などでも報じられ、映画はアメリカで2026年5月29日公開予定とされている。※日本は公開未定。

The Backroomsという世界観が、今後どのように拡張されていくのか。その未来はますます楽しみである。

余談だが、2024年中頃、この「起源となった画像」の出どころが突き止められたのでそちらにも触れておこう。X発と思われる内容がRedditにて詳細に説明されている。
そこでは、アメリカ・ウィスコンシン州にあるおもちゃ屋が、居抜き物件を購入・改装した際の様子を自身のブログに投稿しているのが見られる。その場所はまさにあのThe Backroomsだったのである。
当時の様子は、ウェブ上のあらゆるサイトを保存しているアーカイブサービス「Wayback Machine」で確認することができる。リンク先を見ると、普通のブログに何気なく、あの起源となる画像がアップロードされていることが分かる。

まさか本人も、趣味のブログに投稿した1枚の写真が、都市伝説の出発点になるとは思いもしなかったことだろう。

読み方は「バックルーム」?「バックルームズ」?

ゲームではだいたい「The」がつかない*5

「The Backrooms」の読み方は、自動翻訳を使っても2パターン出てくる。
「バックルーム」と「バックルームズ」だ。

結論から言えば、これは翻訳やカタカナ表記の問題なので、どちらで読んでも大きな間違いではない。
一般的に、英語を日本語に翻訳する場合は、冠詞と複数形を外して読むことが多いので「バックルーム」と読む人が多い。しかし、個人的には「バックルームズ」をおすすめしている。

理由は大きく3つある。

①「The Backrooms」もLiminal Spaceのように、ひとつの概念として「Backrooms」と呼ばれることが多いから。

実際、YouTubeの動画タイトルやゲームタイトルでは、「The」が付かずに「Backrooms:○○」のように表記されているものが多い。
これは、単なる「奥の部屋」や「裏部屋」という意味ではなく、複数のレベルで構成された裏世界、あるいは都市伝説的な世界観そのものを指す言葉として「Backrooms」が使われているからだと考えられる。
そうなると、「The Backrooms」のときはバックルーム、「Backrooms」のときはバックルームズ、と毎回読み方を変えるのは少し不便だ。それなら最初から「バックルームズ」と統一した方が、作品名やジャンル名としても扱いやすい。

②Kane Parsons氏の映画のタイトルが『Backrooms』なので、統一したいから。

Kane Parsons氏は、YouTubeで公開した「The Backrooms」関連の映像作品によって、このジャンルを一気に広めた人物のひとりである。そのKane氏が監督する映画タイトルも『Backrooms』となっている。
これは、Microsoftの「Windows」を「ウィンドウズ」と読むように、固有名詞としての「Backrooms」と考えると分かりやすい。
「The」が付いたらバックルーム、外れたらバックルームズと分けるよりも、作品名・ジャンル名・世界観の名前として「バックルームズ」と読んだ方が、個人的にはしっくりくる。

③「The Backrooms」は複数のレベルで構成された世界だから。

Backroomsの世界は、ただひとつの部屋ではなく、Level 0、Level 1、Level 2……というように、いくつもの空間や階層が存在するものとして語られることが多い。だからこそ、あえて複数形のニュアンスを残して「バックルームズ」と読みたい。
「バックルーム」と読むと、どうしても普通のバックヤードや裏部屋のような印象が出てしまう。一方で「バックルームズ」と読むと、無数の部屋や階層が広がる、どこまでも続く不気味な異世界という雰囲気が伝わりやすい。
もちろん、「バックルーム」と読んでも間違いではない。
ただ、本ブログ記事や筆者のYouTubeチャンネルでは、都市伝説としての広がりや、複数のレベルを持つ世界観としてのニュアンスを重視し、基本的に 「バックルームズ」 という読み方で統一する。

Wiki文化としてのLiminal SpaceとThe Backrooms

Wikiイメージ*6

Backroomsは、もともと4chanに投稿された1枚の画像と短い文章から始まった。しかし、そこから「不気味な空間の画像」と「その世界観を説明する文章」を組み合わせて投稿する、独特のWiki文化が生まれていった。ここでは、最低限知っておきたい知識だけをお伝えして、有名なWikiコミュニティを紹介していこう。

Backrooms系Wikiを見る前に知っておきたいこと

Backrooms系のWikiでは、基本的に「レベル」ごとに1つの記事が用意されている。
たとえば「Level 0」「Level 1」「Level 37」のように、それぞれの空間に番号や名前が付けられ、その場所の見た目、危険度、特徴、入り方、出方などが文章で説明される。そして、その記事の中心には、だいたい1枚の印象的な画像が置かれている。つまり、BackroomsのWiki記事は、単なる設定資料というよりも、「ズレた画像」と「その空間に本当に迷い込んでしまったかのような説明文」で構成された、共同創作の読み物に近い。

記事の種類も、レベルだけではない。
Backroomsの中に存在するとされる生物や動くモノは「エンティティ」と呼ばれ、それらについて書かれた記事もある。
また、Backrooms全体で特定の条件下に発生する異常現象については、「現象」として扱われる。
だいたい大きく分けると、Backrooms系のWikiは、

・レベル
・エンティティ
・現象

この3つを中心に構成されている。
それ以外にも、世界観を補完するニュースの切れ端、誰かが残したテープ、Found Footage、つまり「発見された映像」風の記録や、探索者のメモのような記事もある。
このあたりは、ただ設定を並べているというより、「この世界がどこかに本当に存在していて、その断片だけがこちら側に流れ着いている」ように見せるための演出だ。

特にBackrooms系のWikiコミュニティでは、記事を書く際のルールとして、画像にも文章にも「リミナリティ」を含ませることが重視されている。

BackroomsのWiki記事は、ただ怖いモンスターや派手な異世界を出せばいいわけではない。

むしろ重要なのは、見慣れた廊下、プール、ショッピングモール、オフィス、学校、ホテルのような空間に、説明しにくい違和感を宿らせることだ。だからこそ、BackroomsはLiminal Spaceと強く結びついている。

ただし、ひとつ注意点がある。BackroomsのWikiコミュニティはいくつも存在しており、コミュニティによって設定やレベルの内容が違うということだ。
たとえば同じ「ショッピングモールのような空間」でも、Fandom版とWikidot版ではレベル番号や内容が違うことがある。
そのため、どこかのレベルを引用する場合は、単に「BackroomsのLevel 37」と言うだけではなく、「海外版WikidotのLevel 37」「Fandom版のLevel 37」のように、どのコミュニティの情報なのかを分けて考える必要がある。ここを混ぜてしまうと、人によって話しているBackroomsの内容が食い違うことも多い。

ここからは、BackroomsやLiminal Spaceを調べるうえで、最低限知っておきたい代表的なコミュニティを紹介していく。

もっとも有名なWikiコミュニティ「Fandom版 Backrooms wiki」

日本版 海外版

Fandomは、起源となる4chanの投稿から間もない2019年5月下旬には、Wayback Machine上でページの存在が確認できる、最初期のBackrooms系Wikiコミュニティである。

Fandomは誰でも参加しやすく、記事の量がとても多い。そのため、Backroomsについて調べていると、Fandomの記事にたどり着くことが多い。有名なレベルやエンティティも多く、Backroomsの世界観を広く知りたいなら、まず見ておきたいWikiだ。一方で、参加しやすいぶん、記事の方向性やクオリティにはかなり幅がある。良くも悪くも、Backroomsというジャンルが大きく膨らんでいった場所という印象が強い。

・Fandomと並ぶ代表的なWikiコミュニティ「Wikidot版 The Backrooms」

日本版 海外版

Fandomと並んで有名なのが、Wikidot版のBackrooms Wikiだ。Wikidot版は、公式トップで「2020年から続く共同創作プロジェクト」と説明されており、Fandomとはまた違う解釈のBackroomsを展開しているコミュニティである。
こちらは、Fandomと比べると記事の審査や執筆ルールがしっかりしている印象が強い。公開されている記事も全体的に完成度が高く、読み物としてかなり洗練されている。

特にWikidotでは、Backroomsを単なるモンスターのいる異世界としてではなく、リミナリティを持った空間の共同創作として扱っている印象がある。画像の選び方、文章のトーン、空間の説明の仕方にも、どこか抑制された怖さがある。派手な設定を追加するというより、「この場所に長くいてはいけない」という感覚を、画像と文章でじわじわ伝えてくるタイプのWiki。個人的には、このWikidot系の空気感がかなり好きだ。

とくに日本版Wikidotは、リミナリティをかなり大事にしている印象があり、Backrooms本来の「画像とテキストだけで不気味な空間を立ち上げる」という魅力が強く残っている。他のWikiでは、人間のコミュニティや組織、勢力図のような要素が大きく扱われることもあるが、日本版Wikidotはそこに寄りすぎず、あくまで空間そのものの違和感を大切にしているように感じる。

そのため、個人的には日本版Wikidotを定期的にチェックしている。
新しい記事を読むたびに、「Backroomsはやっぱり空間の怖さなんだ」と思わされることが多い。

・サブレディットのBackroomsコミュニティ

海外版のみ

Backroomsは、Reddit上にも大きなコミュニティが存在する。
Redditの「サブレディット」とは、日本でいうところの「掲示板の板」のようなもので、特定のテーマに興味のある人たちが集まる場所だ。

Backroomsのサブレディットでは、Wikiのように整理された記事というよりも、Backroomsに関連する画像、考察、ニュース、ゲーム、映像作品、Found Footage風の投稿などが流れてくる。執筆時点(2026年5月20日)では、r/backroomsは35万人を超える規模のコミュニティになっている。

Wikiほど体系的に整理されているわけではないが、そのぶんリアルタイムの熱量がある。
いまBackrooms界隈で何が話題になっているのかを知るには、Redditのコミュニティを覗いてみるのもおもしろい。

・サブレディットのリミナルスペースコミュニティ

海外版のみ

Backroomsとあわせて見ておきたいのが、Liminal Spaceのサブレディットだ。

こちらはBackroomsそのものというより、リミナリティを感じる画像や動画が大量に投稿されているコミュニティである。執筆時点(2026年5月20日)では、参加者が1,078,946人、つまり107万人を超えており、週あたりの投稿数も5000件を超えている、非常に活発なコミュニティだ。

Backroomsのように「Level 〇〇」という形で世界観を作るというよりも、日常の中にある不気味な空間、妙に懐かしい空間、誰もいない施設、古いホテル、夜のプール、無人のショッピングモールなどが単発で投稿されている。

Backroomsが「リミナルスペースを使って異世界を作る文化」だとすれば、Liminal Spaceのサブレディットは「リミナルな画像そのものを集める文化」に近い。

こちらはとにかく投稿量が多い。Backroomsの元になった感覚や、リミナルスペースの空気感を知りたいなら、かなり参考になる場所だ。興味があれば、ぜひ一度覗いてみてほしい。

SCP財団との関係は?

ちなみに、BackroomsのWiki文化はSCP Foundationともかなり近い。

どちらも4chan発のネット怪談が、Wiki上の共同創作によって巨大な世界観へ広がっていった文化である。

ただし、SCPとBackroomsは公式に同じ世界観というわけではない。SCPは「現実世界の裏側に異常存在が隠されている世界観」、Backroomsは「現実から外れた異空間に迷い込む世界観」という大きな違いがある。

あくまで、ネット発の怪談が共同創作Wikiとして広がっていったという点で、似た経緯を持っていると考えるのがちょうどいい。

そう考えると、Backrooms Wikiが執筆ルールでリミナリティを大切にしている理由も分かりやすい。

共同創作である以上、誰でも自由に設定を足せる一方で、何でもありにしすぎると、Backrooms本来の「見慣れた場所なのに、どこかおかしい」という空気感が失われてしまう。

だからこそ、Backroomsではリミナリティを重視し、世界観が大きくブレないようにしているのだ。

ゲームジャンルとしてのLiminal SpaceとThe Backrooms

リミナリティの強いゲーム*7

筆者はこれまで、Liminal SpaceやThe Backroomsを題材にしたゲームを、軽く100本以上は遊んできた。その中で見えてきたのは、同じように見えるLiminal Space系・Backrooms系のゲームにも、実はかなり明確な違いがあるということだ。

大きく分けると、ゲームとしての方向性は3種類ある。

Liminal Spaceを題材にしたゲーム

1つ目はLiminal Spaceを歩くことを目的としたウォーキングシミュレーター系のゲームだ。筆者はこれを、個人的に「リミナルスペース系のゲーム」と呼んでいる。

これは、広大なLiminal Spaceを、敵やエンティティに邪魔されることなく、美学として空間を楽しみながら歩いていくタイプのウォーキングシミュレーターゲームである。目的は、モンスターから逃げることではない。謎を解いて脱出することでもない。むしろ、誰もいないプール、無限に続く廊下、異様に広い施設、現実にありそうで存在しない空間を、自分のペースで歩きながら、その違和感や美しさを味わうことが中心になる。

代表作としては、『POOLS』『LIMSCAPE』などが挙げられる。

『POOLS』はSteamページ上でも、ウォーキングシミュレーターとして紹介されており、モンスターに追いかけられたり、ジャンプスケアで驚かされたりするゲームではないと説明されている。
『LIMSCAPE』も、静かで不気味な空間を歩く一人称探索ゲームであり、サンドボックス機能で自分の空間を作ることもできる。

こういった作品は、サバイバルホラーというよりも、Liminal Spaceという美学そのものを体験するためのゲームに近い。最近は、後述するバックルームズ系のゲームよりも、こちらのリミナルスペース系のゲームを見かけることが増えてきた印象がある。

リミナルスペース系のゲームについては、別途おすすめ作品をまとめた記事を書きたいと思うので、完成したらここにリンクを貼る予定だ。

The Backroomsを題材にしたゲーム

2つ目はBackroomsの世界観を舞台にしたサバイバル系のゲームだ。筆者はこれを「バックルームズ系のゲーム」と呼んでいる。

こちらは、Backroomsの世界観をもとに、異空間の中をサバイバルしながら探索していくタイプのゲームである。The Backroomsが広まり始めた初期の頃は、どちらかというとこのタイプのゲームが多かった印象だ。

代表作としては、『Escape the Backrooms』『Seclusion』などが挙げられる。

このタイプのゲームでは、エンティティから逃げたり、パズルを解いたり、仲間と協力しながら出口を探したりすることが多い。失敗すればゲームオーバーになるため、リミナルスペース系ゲームのように、空間の美しさや違和感をじっくり味わう余裕はあまりない。

もちろん、それが悪いというわけではない。むしろバックルームズ系ゲームの魅力は、異空間に閉じ込められた恐怖や、何かが近くにいるかもしれない緊張感を、ゲームとして体験できるところにある。

ただ、リミナルスペースの空間そのものを楽しみたい人にとっては、敵やゲームオーバーの存在が少し邪魔に感じることもある。最近は、このタイプの純粋なバックルームズ系ゲームは、以前より少なくなってきたように感じる。一方で、マルチプレイ対応の作品など、ゲーム性として分かりやすい強みを持った作品は今でも一定の人気を保っている印象だ。

The Backrooms的な空間を扱いつつ、内容はリミナルスペース系のゲーム

3つ目は、世界観としてはBackrooms的な異空間を扱いつつ、ゲーム性としてはリミナルスペース系に近い作品だ。
筆者はこれを、個人的に「Complex系のゲーム」と呼んでいる。

これは、Backroomsのような異空間やレベル構造を扱いながらも、敵に追われたり、ゲームオーバーになったりするのではなく、自分のペースで空間を歩き、リミナリティを味わうタイプのウォーキングシミュレーターゲームである。

代表作としては、『The Complex: Expedition』『Backrooms: Last Room』などが挙げられる。

『The Complex: Expedition』は、Steamページでも「Backrooms」の都市伝説をもとにした心理的ホラー体験として紹介されており、探索と緊張感を重視した作品となっている。

このタイプのゲームは、一見すると「ホラーなBackroomsの世界に飛び込んでサバイバルするゲーム」に見える。しかし実際には、敵が出てこなかったり、プレイヤーを急かす要素が少なかったりして、各レベルを自分のペースで歩いていくことが中心になる。

なぜ「Complex系」と呼んでいるかというと、この流れの代表的な作品が『The Complex』シリーズだと感じているからだ。
『The Complex: Found Footage』は、VHSカメラ越しにBackrooms的な世界を体験するウォーキングシミュレーターとして登場し、その後のBackrooms系ウォーキングシミュレーターにかなり大きな影響を与えた作品だと思う。
つまりComplex系ゲームは、Backroomsの世界観を持ちながらも、遊び方としては「逃げるホラー」ではなく、「空間を味わうホラー」に近い。

最近は、純粋なバックルームズ系ゲームよりも、このComplex系ゲームやリミナルスペース系ゲームを見かけることが増えてきた印象がある。

なぜバックルームズ系のゲームが減り、リミナルスペース系のゲームが増えたのか?

ここでひとつ疑問が出てくる。

なぜ、敵から逃げたり、サバイバルしたりするバックルームズ系ゲームよりも、リミナルスペース系ゲームやComplex系ゲームが増えてきたのか。その理由は、ユーザーがこのジャンルに何を求めているのかを考えると見えてくる。

BackroomsやLiminal Spaceに惹かれる人の中には、必ずしも「怖い敵に追いかけられたい」という人ばかりではない。
むしろ、誰もいない空間をゆっくり歩きたい。
異様に広いプールや、無人のショッピングモールや、現実から少しズレた廊下を、自分のペースで探索したい。
そういう需要がかなり大きいのではないかと思う。

Dreamcore』の最終章の制作に取り掛かる開発陣が公開した、2026年5月8日の『Dreamcore』のSteamストアページのニュース記事によると、

「皆さまからのフィードバックを拝見した結果、多くの方が障害物が少なく、より自由な探索体験を求めていることが分かりました。」

という内容が書かれている。こうした流れを見ると、リミナルスペース系ゲームの魅力は、ゲーム性の強さよりも、空間そのものを体験できることにあるのだと思う。

現状では、マルチプレイで盛り上がれるバックルームズ系ゲームは一定数残りつつも、ひとりで静かに歩き、リミナリティを味わうタイプのゲームが増えている。それは、Liminal Spaceというジャンルが、単なるホラーゲームの素材ではなく、ひとつの美学としてプレイヤーに求められている表れなのではないだろうか。

YouTube上のLiminal SpaceとThe Backrooms

Liminal SpaceやThe Backroomsのコンテンツは、YouTubeにも多数存在する。ここでは、中でも特に有名なYouTubeチャンネルを淡々と紹介していこう。

・Kane Pixels

言わずと知れた、Backrooms映像作品の火付け役である。

Kane Pixelsは、Kane Parsons氏によるYouTubeチャンネルで、2022年に投稿された『The Backrooms (Found Footage)』によって、The Backroomsというジャンルの知名度を一気に押し上げた。現在ではA24による映画『Backrooms』の監督も務めており、YouTuberから映画監督になったレジェンド的存在と言っていいだろう。近年のYouTube発クリエイターの成功例としても大きく注目されている。

Kane PixelsのBackrooms動画は、大きく分けると2種類ある。

①『The Backrooms (Found Footage)』のように、偶然Backroomsへ迷い込んでしまった人物の映像を描くFound Footage系の作品。
②Asyncという研究組織や、Backrooms内で発生した失踪事件などを描く、連続したストーリー性のあるシリーズである。

・Ruster

Rusterは、BackroomsのさまざまなレベルにフォーカスしたFound Footage系の短編映像を多く投稿しているチャンネルである。5〜8分ほどのショートムービーが多く、ひとつのレベルを映像として見せるのが非常にうまい。

たとえば「Backrooms - Level 11 “City” (found footage)」では、Backroomsの有名なレベルのひとつであるLevel 11、いわゆる無限に続く都市のような空間が描かれている。この動画はYouTube上でも確認でき、Level 11を映像化した代表的なFound Footage作品のひとつと言っていいだろう。

また、Rusterの映像表現を思い出すBackrooms系ゲームも多く、特にLevel 11系の都市型リミナル空間を扱った作品を見ると、この動画の影響力の大きさを感じることがある。ほかにも、Backroomsを探索するラジコン「RC Car」など、独特なアイテムが登場するのも特徴だ。

Kane PixelsがBackrooms映像の本流だとすれば、RusterはBackroomsのさまざまなレベルを短編映像として楽しめるチャンネル、という印象が強い。

・Jared Pike

Jared Pikeは、Liminal Spaceの中でも特に人気の高い「プールルーム」や「Dream Pools」のイメージを広めたアーティストである。

YouTubeチャンネルの動画数はそれほど多くないが、Instagramでは、彼のDream Pools作品を見ることができる。Jared Pike本人のInstagramプロフィールでも「creator of the pool rooms」と紹介されており、公式サイトにも「Dream Pools」というプロジェクトが掲載されている。

彼の作品は、ただのプールではない。清潔で、明るくて、どこか懐かしいのに、なぜか帰れない場所のように感じる。

Liminal Spaceの中でも、プールルームというジャンルに魅了された人の多くは、Jared Pikeの作品に一度は触れているのではないだろうか。
有名なFandomのLevel 37、いわゆるPoolrooms的なイメージを理解するうえでも、かなり重要なアーティストだと思う。

・Lost in the Hyperverse

Lost in the Hyperverseは、Backroomsの世界をリアルな3D映像で描くYouTubeチャンネルである。
YouTubeページが日本語表示に対応している場合、チャンネル名が「ハイパーバースで失われた」のように機械翻訳されて表示されることがあり、少し奇妙に見えるかもしれない。

チャンネル概要では、自身をBackroomsレベルを制作するソロの3Dアニメーターと説明しており、心理的ホラー体験としてBackroomsを描いている。動画は比較的長尺のものも多く、Backroomsの空間をじっくり見せるタイプの作品が中心だ。
全体的に3D映像のクオリティが高く、Backroomsを「映像作品」として楽しみたい人にはかなりおすすめできるチャンネルである。

・VAPORAMA VISION

VAPORAMA VISIONは、VaporwaveやPoolrooms、Liminal Spaceの雰囲気を組み合わせた映像を多く投稿しているチャンネルである。
特にプールルーム系の映像が多く、広大で、どこか絶望的なプール空間に取り残されたような映像が印象的だ。
YouTube上でも「Darkest Poolrooms」シリーズなどが確認でき、Vaporwave、Poolrooms、Dreamcoreといったタグとともに、多くのプールルーム映像を投稿している。
Jared PikeのDream Poolsが、どちらかというと美しさや静けさを感じさせるプールルームだとすれば、VAPORAMA VISIONはより恐怖寄り、悪夢寄りのプールルームという印象がある。

明るいのに怖いプール、広すぎて不安になる水の空間、Vaporwave的な色彩と不穏さが好きな人にはかなり刺さるチャンネルだと思う。

・Complex Research

Complex Researchは、Backrooms内部、あるいは「Complex」と呼ばれる異空間を調査する人物たちのFound Footage映像を多く投稿しているチャンネルである。YouTube上では「Backrooms - Found Footage」シリーズや「Backrooms - Recovery」などの動画が確認できる。

このチャンネルの魅力は、ただ空間を映すだけではなく、調査員たちが実際にBackroomsを探索しているような臨場感があるところだ。
映像の中に調査記録のような雰囲気があり、「この場所を誰かが本当に調査している」という感覚がある。Backroomsは、ただ迷い込むだけでも怖いが、調査対象として扱われるとまた違った面白さが出てくる。

こういうのはやっぱり楽しい。

・Josif Weller

Josif Wellerは、古き良きBackrooms系Found Footageの雰囲気を持った動画を投稿しているチャンネルである。
YouTubeチャンネルでは『The Backrooms (Found Footage)』『The Backrooms - Level 0 “Rover” (Found Footage)』など、Backroomsのさまざまなレベルを題材にした動画が確認できる。

Kane Pixels以降のBackrooms系動画の流れを受けつつ、いろいろなレベルを映像として楽しめるチャンネルという印象だ。投稿しているレベルの幅も広く、BackroomsのFound Footage作品をいろいろ見てみたい人にはおすすめしやすい。

・Backrooms Series

Backrooms Seriesは、怖めのエンティティや、さまざまなレベルを題材にした動画を多く投稿しているチャンネルである。1本あたり8分前後の動画も多く、Backrooms内のエンティティや危険なレベルを映像として楽しみたい人に向いている。

空間のリミナリティをじっくり味わうというよりも、「このレベルには何がいるのか」「どんなエンティティが出てくるのか」を楽しむタイプのチャンネルという印象だ。Backroomsの中でも、エンティティ要素やクリーチャー要素が好きな人には合うと思う。

このように、YouTube上のBackrooms/Liminal Space作品にも、Found Footage、レベル紹介、プールルーム系、調査記録風、エンティティ重視など、さまざまな方向性がある。
まずはKane PixelsでBackrooms映像の本流を知り、そこからRusterやJared Pike、VAPORAMA VISIONなどに広げていくと、このジャンルの幅広さがかなり分かりやすい。

他の美学ジャンルと並走できるLiminal Space

Liminal Spaceは、それ単体で完結する美学でありながら、ほかの美学ジャンルとも非常に相性がいい。

実際、Liminal SpaceやBackrooms系の創作では、Dreamcore、Vaporwave、Brutalism、Frutiger Aeroなど、さまざまな美学ジャンルが取り入れられている。

ただ空間が不気味なだけではなく、そこに「夢の中のような雰囲気」「レトロフューチャーな色彩」「巨大なコンクリート建築」「2000年代的な未来感」などが重なることで、リミナリティの表現はさらに広がっていく。

ここでは、Liminal Spaceと並走している美学ジャンルをいくつか紹介していこう。

・Dreamcore(ドリームコア)

ドリームコアの雰囲気が分かるゲーム*8

どこか懐かしいのに、現実とは少し違う。明るいのに不安になる。かわいいのに、どこか怖い。
そういった夢特有のあいまいな感覚は、Liminal Spaceと非常に相性がいい。

ゲーム『Dreamcore』も、元のDreamcoreという美学をそのまま再現するというより、Dreamcore的な雰囲気を持つリミナルスペースを探索するゲームに近い。

夢の中のような空間を歩きながら、そこにある違和感や不安を味わうという意味で、DreamcoreはLiminal Spaceとかなり自然に並走しているジャンルだと思う。

・Vaporwave(ヴェイパーウェーブ)

ヴェイパーウェーブ系のゲーム*9

Vaporwaveは、もともとは音楽ジャンルとして生まれたものだが、その世界観やアルバムジャケット、映像表現などが美学として広がっていったジャンルである。

レトロなコンピューターグラフィック、古いインターネット感、ピンクや紫のネオン、ギリシャ彫刻、ショッピングモール、古い広告、どこか虚ろな消費社会の空気。そういった要素が重なり、Vaporwaveは「過去に想像された未来」や「終わってしまった消費文化の残響」のような雰囲気を持っている。この世界観も、Liminal Spaceとかなり相性がいい。

誰もいないショッピングモール、ネオンに照らされたプール、古い商業施設、深夜のフードコートのような空間にVaporwave的な色彩が加わると、懐かしさと不気味さが一気に強くなる。

そのため、Vaporwave的なレベルや映像、ゲーム作品も多く見られる。

・Brutalism(ブルータリズム)

ブルータリズムの雰囲気が分かるゲーム*10

1950年代以降に広がった建築様式で、打ち放しコンクリートや巨大な構造物、無骨で冷たい印象の建築が特徴である。
装飾を減らし、素材や構造をそのまま見せるような建築が多く、巨大なコンクリートの壁、広い吹き抜け、無機質な通路などが印象に残る。

このBrutalismも、Liminal Spaceと非常に相性がいい。

巨大すぎる建物。
人の気配がない広い空間。
どこまでも続いていそうなコンクリートの廊下。
目的が分からない階段やスロープ。

こうした要素は、Liminal Spaceが持つ「現実にありそうなのに、どこかズレている」という感覚とかなり近い。
そのため、BackroomsやLiminal Space系のゲームでも、Brutalism的な空間はよく登場する。
冷たく巨大なコンクリート建築は、リミナリティを表現するうえでかなり強いモチーフだと思う。

・Frutiger Aero(フルティガー・エアロ)

フルティガー・エアロの雰囲気が分かるゲーム*11

Frutiger Aeroは、2000年代中盤から2010年代前半ごろの、テクノロジーに対する明るい未来感をまとった美学である。Windows VistaやWindows 7のAero UIを思い出すと分かりやすいかもしれない。

透明感のあるガラス表現、光沢のあるボタン、水、空、草原、魚、地球、丸みのあるデザイン。
そこには、テクノロジーと自然が調和した、清潔で明るい未来のイメージがある。

しかし今見ると、その未来感には少し不思議な懐かしさがある。
当時は新しく見えたはずなのに、今では「どこかで見たことがある、でももう戻れない未来」のように感じる。
この感覚も、Liminal Spaceとかなり相性がいい。

Frutiger Aero的な空間は、Dreamcore系のレベルや、明るめのリミナルスペースと重なることもある。
清潔で未来的なのに、人がいない。
明るいのに、どこか不安になる。
そのあいまいさが、まさにLiminal Space的なのだ。

Liminal Spaceは、他の美学を受け止める器でもある

このように、Liminal Spaceは単独の美学ジャンルでありながら、ほかの美学ジャンルとも自然に重なっていく。

Dreamcoreの夢のような不安。
Vaporwaveの過ぎ去った未来感。
Brutalismの巨大で冷たい建築。
Frutiger Aeroの明るいはずなのに懐かしい未来。

これらはそれぞれ別の美学でありながら、Liminal Spaceの中に入ることで、さらに強いリミナリティを帯びていく。
ただの「誰もいない不気味な場所」ではなく、さまざまな美学を取り込みながら、日々新しい空間や世界観が生まれている。

こうして見ると、Liminal Spaceという美学ジャンルの人気が今も途絶えない理由が、少し分かるのではないだろうか。

音楽ジャンルとしてのLiminal Space

実は、Liminal Spaceには音楽ジャンルとしての側面もある。

界隈では「Liminal Music」と呼ばれることもあり、YouTubeやSpotifyなどでは、Liminal Space、Dreamcore、Vaporwave、Frutiger Aeroなどの言葉を組み合わせたプレイリストが数多く見られる。

ただし、Liminal Musicは、ロックやジャズのように明確な形式を持つ音楽ジャンルというより、Liminal Space的な感覚を音で表現するネット発の音楽文化に近い。

前述したDreamcoreやVaporwave、Frutiger Aeroには、それぞれに合う音楽の雰囲気がある。

Dreamcoreなら、夢の中で流れていそうな、少しぼやけた音。
Vaporwaveなら、古いCMやショッピングモールのBGMを思わせる、懐かしくも虚ろな音。
Frutiger Aeroなら、2000年代の未来感や、透明感のある電子音。

Liminal Musicでは、そうした音楽をそのまま使うだけではなく、ピッチを少しズラしたり、リバーブを深くかけたり、音を遠くで鳴っているように加工したりすることが多い。

その結果、少し不安になるのに、なぜか落ち着く。
懐かしいのに、どこか知らない場所にいるような気分になる。

そうした、感情のあいだに取り残されるような音楽が、Liminal Musicの魅力だと思う。

Liminal Spaceは、画像や映像だけの美学ではない。

誰もいないプール、夜のショッピングモール、無限に続く廊下のような空間に、遠くで反響するような音楽が重なることで、リミナリティはさらに強くなる。

つまりLiminal Spaceは、視覚的な美学の器であると同時に、音楽的な美学の器でもあるのだ。

個人的に好きなのは、nobody氏の作ったプレイリスト

これからのLiminal SpaceとThe Backrooms文化

これからのLiminal SpaceやBackroomsはどういう方向性に進んでいくだろうか。

もちろん、ここから先は筆者個人の感想であり、あくまで予想に過ぎない。

ただ、これまでLiminal SpaceやBackroomsのゲーム、映像、Wiki、SNSの動きを追ってきた感覚としては、この2つは少しずつ別の方向へ進んでいくのではないかと思っている。

大きく言えば、Liminal Spaceは「癒しと恐怖の狭間にある美学」として広がり、Backroomsは「サバイバルホラー的な世界観」や「共同創作ホラーIP」として残っていくのではないだろうか。

Liminal Spaceは、かなり柔軟な美学である。

誰もいないショッピングモール、夜のプール、無人の学校、巨大なホテル、古いオフィス、ブルータリズム建築、Dreamcore、Vaporwave、Frutiger Aero。
これらのさまざまな美学や空間を取り込みながら、「懐かしいのに怖い」「落ち着くのに不安になる」という感覚を広げ続けている。

実際、現在のSNSやゲームの流れを見ても、Liminal Spaceの方がより広い層に届きやすい印象がある。

サブレディットでは、r/LiminalSpaceが100万人を超える規模となっており、r/backroomsの35万人超と比べても、かなり大きなコミュニティになっている。
Xでも、Liminal Space系の有名アカウントは現在も投稿が続いており、フォロワー数も10万人を超えるものが複数見られる。

もちろん、フォロワー数や参加者数だけで文化の価値が決まるわけではない。ただ、現在の広がり方を見ると、Liminal Spaceは単なるネットミームではなく、ひとつの美学ジャンルとして定着しつつあるように感じる。特にゲームの世界では、その流れが分かりやすい。

The Backroomsが広まり始めた初期は、敵から逃げたり、エンティティに襲われたりするサバイバルホラー寄りのゲームが多かった。しかし現在は、敵に邪魔されず、自分のペースで空間を歩くリミナルスペース系のゲームや、Complex系のウォーキングシミュレーターを見かけることが増えている。これは、プレイヤーがLiminal Spaceに求めているものが、必ずしも「怖い敵から逃げること」だけではないからだと思う。

むしろ、誰もいない空間をゆっくり歩きたい。
現実から少しズレた場所に、しばらく浸っていたい。
癒されるようで怖い、怖いのに落ち着く、あの独特な感覚を味わいたい。

そういう需要が、今後もLiminal Spaceという美学を支えていくのではないだろうか。

一方で、The Backroomsも消えていくわけではないと思う。The Backroomsには、Level、Entity、Phenomenon(現象)、Found Footage、Wiki、映画、ゲームといった、共同創作ホラーとしての強い土台がある。

今後は、Liminal Spaceのように広く美学として拡散していくというより、SCP Foundationのように、ひとつの巨大なホラー世界観として残っていくのではないだろうか。
SCPが「異常存在を収容する組織」という軸を持っているように、Backroomsには「現実から外れ落ち、無限に続く異空間へ迷い込む」という強い軸がある。

この軸がある限り、Backroomsは映像作品、ゲーム、Wiki、映画などの形で、これからも生き残っていくと思う。特にKane Parsons氏による映画『Backrooms』が公開されれば、Backroomsは再び大きく注目される可能性がある。

ただ、そのときに広がるBackroomsは、初期のネットミームとしてのBackroomsとは少し違うものになるかもしれない。

より映画的で、よりホラーIPとして整理されたBackrooms。
一方で、Liminal Spaceは、もっと曖昧で、もっと個人的で、もっと日常の中に染み込んでいく美学として広がっていく。

そう考えると、Liminal SpaceとBackroomsは、同じ起源や近い感覚を持ちながらも、これからは少しずつ役割を分けていくのだと思う。

Backroomsは、異空間に迷い込む恐怖の物語として。
Liminal Spaceは、現実の中にあるズレや懐かしさを見つめる美学として。

この2つは今後も完全に切り離されるわけではなく、互いに影響し合いながら、それぞれ別の方向へ進化していくだろう。新しく生まれた美学であり、ネット文化であり、ゲームや映像にも広がり続けているジャンルだからこそ、これからも注目していきたい。

Liminal SpaceとBackroomsは、終わった文化ではない。むしろ、これからどのように変化していくのかを見届けること自体が、このジャンルの楽しみのひとつなのだと思う。

Liminal Spaceは癒しと恐怖の狭間の美学としてより洗練され、

Backroomsはサバイバルホラーとして、現在のSCPのように生き残っていくことだろう。

関連リンク

◆筆者のYouTubeチャンネルの【Liminal Space & The Backrooms 】ゲーム実況の再生リスト
◆筆者のYouTubeチャンネル(リミナルスペース系のゲームめちゃくちゃ遊んでます)
A24公式『Backrooms』ページ
SCP公式ページ

出典

*1:ゲーム『Mors Memora』より
*2:ゲーム『Liminal Salvation』より
*3:ゲーム『Paradise Nowhere』 初期のPre-Alpha版より
*4:海外匿名掲示板4chanアーカイブより
*5:ゲーム『Backrooms: Found Footage』より
*6:日本語版Fandomページより
*7:ゲーム『LIMINAL GAME』より
*8:ゲーム『Dreamcore: Rabbit Hole』より
*9:ゲーム『Vaporwave Pinball』より
*10:ゲーム『The Silent Vault』より
*11:ゲーム『Millennium Dream』より

-コラム, リミナルスペース、バックルームズ系
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