基本情報
女神の継承（2021）
英題：The Medium
製作国：タイ・韓国
原案・プロデュース：ナ・ホンジン
監督・脚本：バンジョン・ピサンタナクーン
出演：サワニー・ウトーンマ、ナリルヤ・グルモンコルペチ、シラニ・ヤンキッティカン
あらすじ
タイ東北部の村で、その地で崇拝されている女神バヤンの霊媒として祈祷師を営む女性・ニム（サワニー・ウトーンマ）。本来、ニムの姉・ノイ（シラニ・ヤンキッティカン）がバヤンに選ばれ巫女になるはずだったが、ノイはそれを拒否し、ニムが代わりに役割を受け継いでいた。ノイの夫の葬式に訪れたニムは、ノイの娘・ミン（ナリルヤ・グルモンコルペチ）の奇妙な行動に気付く。ミンの奇行は次第に常軌を逸していき、ひどい体調不良を訴え始める。ニムは、バヤンがミンを巫女の後継者に選んだのが原因なのだと考えるが……。
作品紹介
上映当時ツイッターで結構話題になっていた記憶がある（自分のTL上だけかもしれない）。数年前から韓国ホラー映画がどんどん勢いを増しており、今作も舞台や言語はタイだがプロデューサーは韓国の方である。
流行りのモキュメンタリー形式ホラー
本作は最近のホラー界隈で再び人気を集めている（気がする）モキュメンタリー形式の作品である。モキュメンタリーとは、ドキュメンタリーの体で作られたフィクション作品のことだ。ホラー映画ではなくホラー界隈と書いたのは、モキュメンタリー人気は何も映画に限ったことではなく、動画やTV番組（『フェイクドキュメンタリー「Q」』『祓除』など）、小説（雨穴『変な家』、背筋『近畿地方のある場所について』、梨の諸作品など）など媒体を跨いで盛り上がりを見せているからである。
本作も経緯はよく分からないが、撮影班たちが霊媒師のニムに密着取材を行っている形式になっており、ちょいちょいドキュメンタリー風のテロップが入る。しかし、リアリティに関しては結構ガバガバな作りをしていて、どこから撮ってるんだこれは、とかこの状況なら撮ってないで逃げるだろ普通、とか結構突っ込みどころも多い。その辺はご愛敬である。ビジュアルイメージのじっとりとした雰囲気に反し、どちらかというと勢いに流されながら見るタイプのホラー映画だと思う。
あとPOV形式で、場面によっては手ブレが激しいのでちょっと酔う。
注意：誰かと一緒に見る時は気を付けよう
観た後で気付いたが、R18＋指定の作品である。そんなにグロいのかと言われると、ホラー映画に慣れている人であれば全然気にすることはない程度である。人間が人間をかじったり、モツがちょっぴり飛び出たり（ライティングが暗くてそこまではっきりとは見えない）するぐらいのものだ。だが、血が苦手な人はやめておいた方がいい。
ほんの数秒ではあるが、あんまりムーディーじゃない性行為の描写がある（婉曲表現）。ホラー映画でムーディーも何もないと思うが、一緒に見る人によってはそのシーンで気まずくなるかもしれない。使用済み〇〇とかも出てくるので、どんな映画でも楽しく観られる人と観よう。同じ趣味の友達とわいわい観るのが一番楽しいかも。
ちなみに犬は無事じゃありません！それどころかわりと酷い目に合うので、そこが苦手な人はすごく要注意。
感想（ネタバレあり）
悪霊・呪い・てんこもり
ミンははじめ、激しい体の痛みやひどい月経を訴える。その症状はミンの母でありニムの姉、本来のバヤンの巫女の継承者であったノイが経験した「巫女熱」と呼ばれる、バヤンに選ばれたしるしのような症状と酷似していた。そのため、ニムは当然の帰結として、ミンはバヤンに後継者として選ばれたのだと推測した。
しかしそのあと、何やかんやでミンの死んだ兄・マックが悪霊となってとり憑いているのではないかという考えに至る。マックはバイクの事故で亡くなったのだとノイは話していたのだが、実際は首吊り自殺していたのだ。そしてニムがほのめかすところによれば、マックはミンと後ろ暗い関係にあった。
だが、最終的に、ミンは人間や動物や植物（？）など様々な霊（タイでは日本のような幽霊というよりは精霊というイメージのようだ）にとり憑かれていることが分かる。更にその上、ミンの父方の先祖がかつて斬首した数多の人々の恨みが元となった霊にもとり憑かれているという。もう何が何やらだが、とりあえずえらいこっちゃということである。この斬首された人々の恨み（もしくはプラスアルファ色んな精霊）は強く、バヤンの石像の首が切られたりもしている。
推測するに、元々霊媒であった血筋のミンは霊を受け入れやすい体質だったのではないだろうか。ノイはバヤンを拒否するためにキリスト教に改宗していたのだが、残念ながらキリスト教では土着の精霊には太刀打ちできなかったようだ。まあノイもミンも心からキリスト教を信じているわけではなさそうだったので、「信じる者は救われる」の範囲から外れていたのかもしれない。
楽しい儀式エンターテイメント
皆さん儀式は好きですか。その儀式が派手であればあるほど好きなら、この映画は観るべきだ。
映画の除霊儀式で一番インパクトがでかかったのは小説『ぼぎわんが、来る』の映画化『来る』の宗派入り乱れ儀式だが、『女神の継承』も負けてはいない。
本作では色々な儀式を見ることができる。女神像の周囲で行われる、土着の宗教の儀式。ニムがマックスの自死した場所で執り行った、不浄の物品を並べて卵に穢れを移し、大量の卵を消費する儀式。そして、本作のクライマックスで執り行われる儀式はより大がかりだ。唐突に出てきた「儀式の責任者」という肩書のついている謎の人物サンティがその弟子（？）たちを集め、廃墟で除霊儀式を行う。ミンは家に閉じこめておき、母親のノイを器にして一旦悪霊たちを彼女にとり憑かせてから除霊する運びだ。
何日もかけて準備された儀式は、途中まではうまくいったかと思いきや、案の定ミンが留守を守っていた義理姉を騙して封印を解かせたために失敗する。そして、悪霊たちが周囲の弟子らにとり憑いて撮影クルーたちを襲いまくり、現場はパニックに陥る。
この最後の儀式の雰囲気というかテンションがめっちゃ『哭声』の儀式に似ているなと思っていたのだが、原案・プロデュースが『哭声』の監督だったようだ。というか本作は『哭声』のスピンオフというか続編として企画されていたらしい。というわけで本作の儀式が好きな人は『哭声』の激やかまし儀式も楽しんでください。
まとめ
・土着の宗教に関連するホラーが好きな人
・アジアホラー映画のやたらテンションが高い儀式が好きな人
・タイのホラー映画に興味がある人
とかは観るとよいと思います。怖いかと言われると、特にそんなに怖くはないです。ちょびっとジャンプスケアっぽい箇所はあります。今ならアマプラで観られるので、興味がある方はどうぞ。
一乃のX（Twitter）はこちら。