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『呪葬』(2022/日本公開2024)のネタバレ・考察・感想レビュー【台湾ホラー映画】

一乃

ホラーと本と映画と猫とレオパが好きな者です。

基本情報

呪葬(2022/日本公開2024)
原題:頭七 英題:The Funeral
製作国:台湾
監督:シェン・ダングイ
脚本:チャン・ガンミン
出演:セリーナ・レン、チェン・イーウェン、ナードウ、ウー・イーハン

あらすじ

祖父が亡くなったことを知らされ、ずっと疎遠だった実家に戻ることになったチュンファ(セリーナ・レン)とその娘チンシェン(チェン・イーウェン)。しかし、快く迎えてくれたのは訃報を知らせてくれた叔父のチュアンデ(ナードウ)だけで、父親を始めとする家族からは冷たく拒絶されてしまう。優しかった祖父を見送るため、せめて初七日が終わるまでは実家に留まろうとするチュンファだが、家では不気味な気配や悪夢を立て続けに体験し……。

作品紹介

最近じわじわと話題になっている台湾ホラー!
脚本はゲームにもなった『呪われの橋』(原題・ゲームのタイトルは『女鬼橋』)などを手掛けた方で、監督は本作が初長編監督作品とのこと。
原題は『頭七』だが、これは初七日のことで、台湾では死者の魂が家に帰ってくると言われているのだそうだ。

こんな人におすすめ

・じめっとした雰囲気のアジアンホラーが好きな人
・実家の嫌な雰囲気を味わいたい人
・どんでん返しなストーリーが好きな人

ちょっとジャンプスケアが多めなので、苦手な人は注意。じめっとした雰囲気のホラーが好きな人にはおすすめできる。
また、序盤の展開が少し退屈に感じたとしても、ぜひ終盤までしっかりと見て欲しい。この映画は終盤で一気にエンジンがかかるタイプの作品である。

ざっくり感想(ネタバレなし)

しょっぱなから惜しみなく心霊現象をサービスしまくってくれる、じらすという言葉とは無縁のホラー映画になっている。
シングルマザーかつ手術が必要な娘を抱えたチュンファが、バイトや内職を掛け持ちしまくって働く冒頭。そして実家に帰った途端「何故帰ってきた」的な超塩対応を受ける展開は、なんだかもうテンション上がる要素がなさすぎて心霊現象とかがなくても落ち込んでくる(褒めています)。
しかし、終盤のとある転換で物語のギアが一段階上がり、そこからの怒涛の展開がとても面白い。主人公のチュンファがどうして長年実家と疎遠だったのか、帰ってきた彼女になぜ家族はあんなにも冷たく接するのか、その辺の理由が分かってくるとちょっと感動してしまった。
ただ驚かすだけではない、ストーリーに捻りの効いた良作である。

あとエンディングの曲にやたら力が入っているのでぜひスタッフロールもゆっくり見て欲しい。後から確認すると、既存の曲とかではなくちゃんと歌詞が映画に沿った内容になっているみたい。主演の方が歌っているようです。

ストーリー解説・感想・考察(ネタバレあり)

教訓:家族は大切にしましょう

祖父の葬儀のために実家に戻ったチェンファと娘のチンシェンを迎えたのは、超塩対応の両親&姉&義兄だった。正確に言うと母親はちょっと柔らかめ、義兄はあんまり口を挟みたくなさげな感じではあるのだが、父親と姉がとにかく冷徹な態度を崩さずチェンファたちを拒絶してくるのである。折り合いの悪い実家に帰ることほど嫌なものはない。

更に実家に滞在している間、チェンファとチンシェンは悪夢を見たり妙な気配を感じたり、幽霊のようなものを見たりと散々な目に遭う。唯一友好的に接してくれる叔父のチュアンデは実家には同居していないため、二人はとにかくアウェイな感じなのである。実家なのに。
あまりにも酷い扱いに、チェンファは一度は耐えきれず台北に帰ろうとしたものの、小さい頃から優しくしてくれた祖父をきちんと見送りたいという思いが勝ち、初七日までは留まることに。

どれだけ生活が苦しくても、決して実家に助けを求めようとしてこなかったチェンファ。それどころか娘には親戚の存在すら教えていなかった。その理由は、若くしてチェンファを身ごもったことが分かった時、父親に産むことを猛反対され、一人で娘を産み育てるために家を出たためだった。
チェンファの父は結構昔ながらの厳格な亭主関白っぽい人間で、娘たちが幼い頃から厳しい態度をとっていた。そんな父親なものだから、どこの馬の骨とも分からん上に名乗り出もしない男と子供を作ったなんてウルトラけしからんのである。まあこの父親じゃなくてもその状況だと一旦叱りはするだろうけど、堕ろせ、さもなくば出ていけと言われてキレたチェンファは家を飛び出し、そのままずっとほぼ縁切り状態になっていたのであった。
しかし、父から娘への愛情がなかったわけではない。さすがに身重の娘を追い出したことを後悔したチェンファの父は、彼女の様子を見にこっそり台北まで行って薬を置いておいたり、しょんぼりしながらチェンファの部屋を片付けたりしていたことが回想で明らかになる。もうちょっと双方落ち着いてコミュニケーションをとっていたら、もう少し事態はマシになっていたかもしれない。

しかし、それだけでは家族があんなに冷たくチェンファを拒絶していた理由の説明にはならないだろう。
事の真相はというと、実は全ての黒幕は叔父・チュアンデ。母親が違うことで親族から冷遇されてきたことを恨み続け、霊魂を操る術を会得した(!?)彼は、一家を皆殺しにし遺産を総取りする計画を立てていたのであった。そう、チェンファが実家に戻る直前に、家族は全員チュアンデによって既に殺されていたのである。つまりチェンファが接していた家族はみんな霊であり、実際娘のチンシェンには他の家族の姿は見えていなかったことがここで明らかになる。チュアンデの策略からチェンファらを逃がすために、家族は実家から彼女をとっとと追い出そうと冷たい態度をとり続けていたのである。

初七日の前日にチュアンデはチェンファの前で本性を露わにし、お前の家族全員森で首吊りしてやったぜ!一家団欒ってやつだな!とTHE 悪役な台詞を吐いてチュアンデも絞殺しようとする。一方のチンシェンはというと、チュアンデに一服盛られて朦朧としているところを、彼の協力者の祈祷師によって手をかけられようとしていた。お葬式で念仏を唱えてくれているだけだと思いきや、たまに妙な儀式をしており怪しさ満点だったこの祈祷師はチュアンデの親友だったらしいです。大体味方になることが多い祈祷師キャラだが、今作では悪役なのが面白い。

あわやチュアンデに殺されかけたチェンファだが、霊となった父親によって救出される(物理干渉ができるタイプの霊である)。チェンファは家族の本当の思いを知り涙するのだった。ようやく父娘の気持ちが通じ合うこととなったのだが、悲しいことに父は既に殺された後。しかもチュアンデの謎パワーによって更にとどめを刺され、霊魂ごと消滅させられてしまう。
その時壊れていたはずのお祖父ちゃんの柱時計が鳴り響き、初七日を迎える。初七日、すなわち死者の霊が家族の元に帰ってくる日である。霊となって現世に戻ってきた最強お祖父ちゃんによってチュアンデと祈祷師はお灸を据えられ(婉曲表現)、チェンファとチンシェンはなんとか命ある状態で警察に発見されるのであった。

本作において、全ての行き違いの原因は家族にあった。家族に大切にされていたらチュアンデはこんな凶行に及ばなかっただろうし、チェンファが苦労して一人で子育てすることもなかった。やっぱり家族というものは良い意味でも悪い意味でも、自分という人間の形成や人生に対して強い影響を及ぼすものなのである。
一度行ってしまった選択は再度選び直すことはできないが、その先を軌道修正しようと試みることは可能である。チェンファは、父の死後ではあるものの、お互いに本心を確かめ合うことができた。でも現実ではそんなことはなかなか難しいので、どのような道を選ぶにしろ、自分にとって後悔の少ない結果をつかみ取れるようにしたいものである(教訓)。

エンディングの意味・考察

さて、上記まで読んだ方は「何だかんだあったけどハッピーエンドなんだなあ」と思ったことでしょう。私もそう思いました。
ところがどっこい。
警察に救出された後、恐らく祖父の遺産を得たチェンファは、無事にチンシェンに腎臓移植手術を受けさせることができたようだ。「手術は成功、家族の腎臓を使ったので拒絶反応もない」と医師が術後目覚めたチンシェンに伝えるシーンに移る。その夜チンシェンは、顔を洗いに一人で病院の洗面台に向かい、鏡を見つめて意味ありげな暗い目をする。そこでチェンファが発するのは、作中怪奇現象が起こる際に何度か鳴り、本性を現したチュアンデが発したものと同じ、歯ぎしりのようなキィ……キィ……という音だった……。

ええー!
さて、まず注目したいのは、術後のチンシェンを見守っていたチェンファが私服で病室に座っていたことである。「家族の腎臓を移植した」ということだったが、もしチェンファが腎臓を提供したのならば、彼女も術後のため病院着を着て安静にしているはずだ。つまり、チェンファの腎臓ではない。
そしてチェンファの家族と言えるのは、作中で登場したうちの誰かしかいない。ドナーから摘出した臓器を移植するまで、そんなに長期保存することはできないはずだ。であれば、死んでから少なくとも一週間は経っているはずの実家メンツでは不可能である。

チンシェンは叔父・チュアンデの腎臓を移植されたのではないだろうか?そして、霊を操る術を身に着けていたチュアンデは、何とかして腎臓経由でチンシェンに乗り移った。もしくは、仮にチュアンデの腎臓ではないにしても、少なくとも彼の霊魂はチンシェンの身体に入り込んだように見える。祖父の遺産がどの程度だったのかは分からないが、実家がかなり立派な雰囲気だったことを見ると、少なくとも手術費用をまかなって更に余る程度はあったのかもしれない。そうすると、チュアンデが一族に復讐し、かつ遺産を得るという計画は成功したように見える。チンシェンを乗っ取ることができたのなら、生き残ったチェンファに対する十分なリベンジにもなるのだから。

というわけで、前半は実家最悪喪中ホラー、終盤はハートウォーミング家族ホラーときて、その感動を良い意味で裏切るエンディングだった。

100%ネタバレな主題歌MV

そんな感じでなかなか新鮮で面白い雰囲気のホラーだったのだが、前述した気合たっぷりの主題歌「黑夜中相擁」の公式MVを発見した。主演のセリーナ・レンによるドラマチックで美しい雰囲気の楽曲で、歌詞を翻訳してみるとちゃんと映画の内容をなぞっているのでぜひ聴いてみて欲しいのだが、このMV、完全に映画のネタバレをしまくっており、何ならほぼほぼダイジェストみたいな趣きすらあるとんでもない映像になっている。いいのかこれ?

なので、映画をまだ観ていない人は映像を見ないようにして曲だけ聴いてください。映画を観た上で見てみると、確かにすごく良い雰囲気でまとめられているMVになっている。ドラマチック家族ホラーという感じ。

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